【主人公】
「え? どうしたんですか?」
【主人公】
(なんだかまじまじと
見られているんだけど……)
【男子校生】
「キ、キミは……」
【主人公】
「は、はい?」

男の子はわたしの顔をひとしきり見たあと、
眼鏡とマスクを勢いよく取った。

その顔は――

【主人公】
「あ、ええ!?」
【男子校生】
「ボ、ボク!?」
【主人公】
「わたし……!?」
【通行人】
「な……どういうこと。
キミたちは、知り合いか何かなのか?」
【男子校生】
「いえ、全然。
偶然ここで出会っただけで」
【主人公】
「はい……」
【通行人】
「しかし、こんなに似ている人がいるとは……」
【男子校生】
「まさに奇跡……」
【男子校生】
「奇跡? ……そ、そうだ! これは奇跡。
なら、この奇跡を利用しない手は
ないんじゃ!」
【主人公】
「利用……?」
【男子校生】
「キミ、ボクは今こんな状態だ……。
入学式に出なきゃいけないけど出られない」
【男子校生】
「悪いけど、ボクの代わりに
入学式に出てもらえないか?」
【主人公】
「はぁ!?」
【吉良麟太郎】
「……」
【主人公】
(あそこに立ってる人って、昨日教室に来た……)
【吉良麟太郎】
「!」
【主人公】
(こっちに近付いてきた!)
【主人公】
「うわっ!」
【主人公】
(だ、抱き寄せられた!?)
【吉良麟太郎】
「やはり細いな……」
【主人公】
「っ!?」
【主人公】
(い、いきなりどうしたの!?
っていうか、近い……!)
【吉良麟太郎】
「お前は本当に……鬼ヶ島ひかるなのか?」
【主人公】
「え……?」
【主人公】
(もしかして偽物だってバレた……?)
【金春貴之】
「今回の件はいろいろと迷惑をかけた。
その謝意って意味もある。だから……」 
【主人公】
(? この手……握手しろってことかな)
【主人公】
(金春くんがここまで言ってくれてるんだから、
ちゃんと受け止めよう)
【主人公】
「……わかった。
金春くん、これからよろしく」
【金春貴之】
「ああ、よろしくな……ひかる」
【主人公】
「!」
【主人公】
「うん!」
【箕輪斗々丸】
「よっしゃ、これでもろもろ一件落着だ!
ひかるの1年トップは決まり、
コンパルも今日からオレらの仲間ってことで!」
【主人公】
「わっ!」
【金春貴之】
「っ! いきなりなんだ!」
【箕輪斗々丸】
「っと、わりーわりー。
怪我してんだったな」
【箕輪斗々丸】
「そんじゃあさっさと帰って消毒しねぇと。
ほら、行こうぜ」
【金春貴之】
「おい、離せ」
【箕輪斗々丸】
「んな固いこと言わなくてもいいじゃねぇか。
ひかるもそう思うだろ?」
【主人公】
「えっ!? あ、ああ、うん」
【金春貴之】
「俺は嫌だ。重いからさっさとどけ」
【箕輪斗々丸】
「へぇ~、コンパルクンはこんなんで
ヘバるのかよ」
【金春貴之】
「そんな訳ないだろう。
そこまで言うならお前を担いで
町内一周くらいしてやる」
【金春貴之】
「お前こそ一人で歩けないのか?
大して動いてないくせに」
【箕輪斗々丸】
「んだと!?」
【主人公】
「ぷっ……あはは!」
【箕輪斗々丸】
「ひかる?」
【金春貴之】
「? なんで笑ってるんだ」
【主人公】
「はは、なんでもない」
【主人公】
(今までこういう風に一緒にいる
友達なんていなかったから
なんだか楽しいな……)
【主人公】
(そろそろ帰ろう。
買い忘れたものとかないよね)
【???】
「あ、ねぇあんた」
【主人公】
「え?」
【???】
「この辺じゃ見かけない顔だけど
すごく可愛いね」
【???】
「よかったら今からオレと遊ばない?」
【主人公】
「!?」
【主人公】
(これって……もしかしてナンパ!?)
【ナンパ男】
「あれ? オレの話、聞いてる?」
【主人公】
「あの、遊ぶとか別にいいです!
急いで帰らないといけないので!」
【ナンパ男】
「ははっ、そんな慌てなくてもいいのに。
それに……さっきまでは
急いでる感じじゃなかったけど?」
【主人公】
「え? あ、いや……その」
【ナンパ男】
「あんた、男慣れしてないみたいだね。
ますます興味でてきたなー」
【主人公】
(どうしよう、変な人に絡まれちゃった。
とにかく逃げよう!)
【主人公】
「め、めっそうもないです! 失礼します!」
【ナンパ男】
「うわ……足はや……」
【ナンパ男】
「ふふっ、軽く話しかけただけだったけど
結構面白い子だったな」
【牛又高校ヤンキー1】
「おいこら、待てよ!」
【主人公】
「!!」
【牛又高校ヤンキー5】
「大人しく逃がすと思ってんのか?」
【主人公】
(囲まれた!)
【牛又高校ヤンキー4】
「てめぇはここで袋叩きだ。
校章奪うだけじゃ済まさねぇからな」
【主人公】
(まずい……!)
【牛又高校ヤンキー1】
「やっちまえ!!」
【鳳凰】
「テメェら、よさねぇか!」
【主人公】
「え?」
【鳳凰】
「たったひとり相手に何やってんだ?」
【主人公】
(この人誰……?)
【牛又高校ヤンキー2】
「あぁ? なんだてめぇ。
関係ねぇヤツはすっこんでろ。
俺らはこの獅子吼ヤロウに用があんだよ」
【鳳凰】
「獅子吼に用があるってんなら
なおさら黙ってられねぇな」
【牛又高校ヤンキー2】
「あぁ? だからてめぇ誰だってんだよ!」
【牛又高校ヤンキー1】
「ちょ、ちょっと待て!
こいつもしかして……」
【牛又高校ヤンキー5】
「や、やばい!」
【牛又高校ヤンキー2】
「あ? どうしたんだよ?」
【牛又高校ヤンキー4】
「い、いいから行くぞ!
帰って龍夫に報告だ!」
【主人公】
(行っちゃった……)
【主人公】
(この人を怖がって逃げたみたいだけど。
いったい何者なんだろう?)
【鳳凰】
「なんだありゃ? 根性のねぇ連中だな」
【鳳凰】
「おう、坊主。怪我なかったか?」
【主人公】
「あ、はい。
どうもありがとうございました」
【鳳凰】
「!
オマエ、ひかるか……?」
【主人公】
「えっ!」
【主人公】
(この人、ひかるの知り合い!?)
【箕輪斗々丸】
「ちっ、ウワサ通り挑発には乗らねぇか……。
まあいい、ならもう1人を引き出すまでだ!」
【主人公】
(もう1人?)
【箕輪斗々丸】
「鬼ヶ島ひかる! 次はオマエの番だ!」
【主人公】
「えっ!!」
【主人公】
(鬼ヶ島ひかるって言った?わたしのこと!?
いや、わたしじゃないけど……でも)
【箕輪斗々丸】
「鬼ヶ島ひかる、出てこいよ!!」
【主人公】
(出てこいって言われても……。わたしはただの身代わりだし
ここで出ていくわけには……)
【主人公】
(ここは見つかる前にそっと消えよう)
【主人公】
(ひかるくん、ヤンキーって感じに 見えなかったけど、
指名されるぐらい強いのかな?)
【箕輪斗々丸】
「鬼ヶ島ひかる! オレはテメェが 極道の御曹司だろうが関係ねぇからな!
きっちり勝負つけてやるぜ!!」
【主人公】
「!!」
【主人公】
(え、ちょっ、ちょっと待って!
極道の御曹司!?
ひかるくん、ヤクザの息子だったの!?)
【主人公】
(わたし、そんな人を怪我させちゃったの?)
【主人公】
(もしかしてものすごくヤバいんじゃ……)
【1年ヤンキー2】
「んだよ、鬼ヶ島も出てこねぇのかよ!」
【1年ヤンキー1】
「おい、箕輪ぁ!金春も鬼ヶ島もいねぇ状況でトップ決めても 誰も認めねぇぞ!」
【1年ヤンキー2】
「そうだぜ!トップ取りたきゃ、きっちりその2人も倒さねぇとな!」
【箕輪斗々丸】
「ちっ! 持越しかよ、クソッ!」
【金春貴之】
「ぐはっ……」
「お前、これほどまでの強さだったとは……」
【主人公】
(やっぱり金春くん相当強い……。
結構…くらっちゃったな……)
【主人公】
「金春くん……本当に僕じゃないんだ……
君の弟を誘拐なん…て、 そんなこと…僕は……」
【主人公】
(! まずい、意識が……!)
【吉良麟太郎】
「お、お前……」
【主人公】
「はぁ、はぁ、はぁ……」
【金春貴之】
「ひかるが……勝った……」
【箕輪斗々丸】
「ひかる!」
【吉良麟太郎】
「ためらいがなかった……。
拳に一点の曇りも……」
【吉良麟太郎】
「お前は本当に……鬼ヶ島ひかるなんだな」
【金春貴之】
「なっ!
お前、寝技は出来ないんじゃ……!」
【箕輪斗々丸】
「関係ねぇ! とにかく投げばすっ!」
【金春貴之】
「無茶苦茶だ!」
【箕輪斗々丸】
「うりゃあああ!!」
【金春貴之】
「う、わああっ!!」
【主人公】
「おお! フロント・スープレックス!」
【主人公】
(って、興奮してる場合じゃない。
と、とにかくお茶だけでも避けとこう!)
【金春貴之】
「なかなかやるな……」
【箕輪斗々丸】
「ヘヘっ、だろ?
よし、ひかるオマエも来い!」
【主人公】
「え!?」
【金春貴之】
「お前だけ高見の見物してるつもりか?」
【主人公】
「えええ!?」
【金春貴之】
「ひかる、勝負だ!」
【主人公】
「わ、ちょっ……ああっ!」
【金春貴之】
「寝技で負けるつもりはない」
【主人公】
「!?」
【牛又高校ヤンキー1】
「なんだこのチビ? いつから獅子吼は中学生も
入れるようになったんだ?」
【1年ヤンキー2】
「ふん、バカだなテメェら。
ひかるくんのこと知らねぇのか?」
【1年ヤンキー3】
「テメェらなんか束になってもかなわねぇよ!」
【牛又高校ヤンキー2】
「ひかる?
じゃあコイツが獅子吼の1、2年シメてる
鬼ヶ島ひかる……?」
【牛又高校ヤンキー3】
「ぷっははははは!
こりゃずいぶんナメられたもんだ」
【牛又高校ヤンキー4】
「こんなガキ、秒殺してやる!」
【主人公】
(っ、殴りかかって……!)
【箕輪斗々丸】
「……オレらのトップに何すんだよ」
【主人公】
「斗々丸!」
【箕輪斗々丸】
「大丈夫。受け止めただけだ」
【箕輪斗々丸】
「それより、ひかるをバカにしたのが許せねぇ。
さっきの撤回しろよ」
【箕輪斗々丸】
「コイツは誰よりも強い拳を持ってる。
けどな、それをオマエら相手に簡単に
振るわせるワケにいかねぇんだよ」
【吉良麟太郎】
「そんなことはどうでもいい」
【主人公】
(……え!?)
【主人公】
(なっ、なんで!?)
【主人公】
(どうしてわたし、抱きしめられ……)
【主人公】
「あ、あの、これは……!?」
【吉良麟太郎】
「お前が自分を責める姿がいじらしかった。
ただそれだけだ」
【主人公】
「すみません! 全くわかりません!!」
【吉良麟太郎】
「そうか? どうしてだろうな」
【主人公】
(そ、それは言葉の数が圧倒的に
足りないからで……!)
【スタッフ】
「女性の方、もう少し男性に寄り添うようにして
頂けますか?」
【主人公】
「は、はい……こう、ですか?」
【未良子裕太】
「違うよ、こうですよね?
このぐらいくっつかないとデートにならない」
【主人公】
「……!?」
【スタッフ】
「はい、そうですね!
やっぱり記念写真ですから肩を抱いてもらうのが
ベストです」
【主人公】
「せ、先輩!」
【主人公】
(肩に触れてる手が大きくて気になる。
だけど、いいのかな……。
女の子のわたしと撮っても……)
【スタッフ】
「はい、撮ります!」
【鬼ヶ島鳳凰】
「立ち話もなんだ。
座ってゆっくり聞こうじゃねぇか」
【主人公】
「じゃあ、そこの階段に」
【鬼ヶ島鳳凰】
「おう」
【主人公】
「って、あ、あの……」
【主人公】
「なんで後ろに座るんですか!?」
【鬼ヶ島鳳凰】
「そりゃオマエ、逃がさねぇようにだ」
【主人公】
「ええ?」
【鬼ヶ島鳳凰】
「うりゃ!」
【主人公】
「わぁっ!」
【鬼ヶ島鳳凰】
「まさかオマエが俺に相談なんてな。
夢かと思うほどうれしいぜ」
【鬼ヶ島鳳凰】
「とはいえ、オマエは気まぐれなとこがあるだろ?
これなら気が変わっても逃げらんねぇってワケだ」
【主人公】
「こんなことしなくても逃げませんよ!」
【主人公】
(そんなにひかるくんに逃げられてたのかな?)
【鬼ヶ島鳳凰】
「頭小せぇなぁ。
身体なんて俺の半分なんじゃねぇか?」
【主人公】
「あ、あの! 僕の話を聞いてください!」