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わたしと斗々丸と金春くんは、授業を終えて獅子吼の校門へ向かう。
昨日まで降り続いた雨も上がり、爽やかな風が吹き抜け、今日はとても気持ちの良い天気だ。
おかげでいつもならお喋りやゲームをする音で騒がしいヤンキーばかりの獅子吼の教室も、みんなの寝息が響いてとても静かだった。
(だからまあ、金春くんが居眠りしちゃうのも仕方ないと思う)
「その写真を早く消せ、斗々丸!」
金春くんが苛立った様子で斗々丸の携帯へ手を伸ばす。
斗々丸の携帯には居眠りをしている金春くんの写真が収められていて、それを消す消さないの攻防が先ほどから繰り広げられていた。
「寝顔くらい別によくね? ホントは動画撮りたかったくらいだぜ。コンパルの寝言スゲェ面白かったし」
金春くんの居眠り自体は珍しくないけれど、寝言を言ってたというならレアだ。すると目を閉じた斗々丸が、金春くんの口調を真似して寝言を再現する。
「『……卵の殻は……使うから……捨て、るな……』だってよ」
「どういう夢見てたの!?」
思わずツッコんでしまったが、斗々丸の携帯を取り上げて写真を消しながら金春くんが丁寧に答えてくれる。
「母に卵の殻は使えるから捨てるなって言われたんだ! 漂白とか、肥料とか」
「生活の知恵かよ」
斗々丸のさらなるツッコミをスルーして、金春くんは携帯を返却する。顔が少し赤い。
「うるさい。お前がそのつもりなら、俺もお前の恥ずかしい写真を撮ってやるからな!」
「おう、いつでも来い! 寝顔でも着替えでも激写されてやるぜ!」
「くっ、少しは羞恥心を持て……!!」
そんなやりとりをしながら校門のところまで歩くと、帰り際話していたらしい吉良先輩と未良子先輩が見えた。

つづく

同じようにこちらに気付き、未良子先輩がわたしたちに話しかけてくる。
「ずいぶん楽しそうだけど、何の話してんの?」
「えっと……隠し撮りの話、ですかね?」
わたしの言い方が悪かったせいで未良子先輩と吉良先輩が若干引いているけれど、斗々丸がそれに黙っているはずもなく。
「これは隠し撮りとかじゃなく、なんつーか……思い出作り? 大事な記憶の1ページってカンジだって! ほらキラとミラコも」
驚くほどの自然さで、斗々丸は吉良先輩と未良子先輩の写真も撮ってしまった。
見てみると、先輩二人もちゃんと目線を合わせてくれているのが可笑しい。
「突然撮らないでくれる?事務所通してくれないと困るんだけど」
「そう言いつつしっかりポーズをとっているのが、さすが芸能人ですね……」
そのやりとりが可笑しくて声を出して笑うと、急に『パシャ』と音が響いた。
何かと思えば、未良子先輩が斗々丸同様、携帯で写真を撮った音だった。
「オレもひかるの写真ゲット」
「な、なんで僕まで……!」
「カワイイ顔して笑うから、つい撮っちゃったんだよね」
すると隣の吉良先輩がそれを覗き込み始めるので、恥ずかしくてたまらない。
「確かに、いい顔をしているな」
つられたように吉良先輩が微笑みかけてくれるのはうれしいけれど、やっぱり恥ずかしい。
消してもらおうと思って近づくと、斗々丸が割り込んで自分の携帯画面を見せる。
「オレの持ってる写真のがひかるいい顔してるって。ホラ」
「ちょっ!! そんな写真いつ撮ったの!?」
消してもらわなければいけない写真が増えてしまった。
斗々丸の画面の中のわたしはうれしそうにアイスを食べていて、いつ撮られたのかも分からない。
それを見た金春くんは難しい顔で思いもよらない指摘をする。
「可愛く撮ってどうするんだ。ただでさえ女みたいなんだから、もっと男らしいところを出さないと」
「おっ、ひかるさんの写真っスか」
と、いつの間にやってきたのか天馬くんも会話に参加する。
「いつもながらひかるさんカワイイ顔してますねー。全然ヤンキーには見えねぇ。てか俺もひかるさんの写真欲しいんで、ツーショ撮ってください!」
「えっ、今……!?」

つづく

「はいカメラ見てー。もっと近く寄ってくんねぇと入んないっスよ」
突然やってきた天馬くんに肩を抱き寄せられる。
自撮りでツーショットを撮ろうというのだろうが、シャッターが押される前に吉良先輩がそれを阻止した。
「待て。許可くらい取ってからにしたらどうだ。あと近すぎだ」
「そっスか? じゃ、みんなで撮りましょうよ!」
「みんなでって、俺もか……?」
「そんなら人文字とか作って撮ろうぜ!」
「オレ帰っていい?」
(これは、写真を消してもらうどころじゃなくなってきた……!)
すっかり流れが記念撮影になってしまった。
そんな時、大きな手が困惑するわたしの肩を力強く叩く。視線を向けると、そこにはスーツ姿の鳳凰さんがいた。
「兄さん!」
「よう。こんなところで何を大騒ぎしてるんだ?」
姿を見れば仕事終わりなのだと一目で分かる。
その笑顔を見るとわたしはいつもホッとするけれど、興味津々でみんなの写真を見始めた鳳凰さんにいつもとは違う不安が募った。
「どれも良い写真じゃねえか。俺にもお裾分けしてくれよ。もちろんタダとは言わねぇ」
とっておきがあるからな、と鳳凰さんは自分の携帯を取り出す。
そして画面に映し出されたのは、わたしの写真の数々だった。
「わああ!? なんでこんなに僕の写真持ってるんですか!」
「ん? オマエが鬼ヶ島の家にいた頃のヤツと、坂口から送られてきたヤツだ」
双子のわたしたちはよく似ているのでみんなは見分けがつかないようだが、よく見るとひかる本人の写真とわたしの写真が混ざっている。ほとんど隠し撮りだ。
だというのに、よりによってわたしが真剣に筋トレをしている写真で画面をスワイプする指が止まる。
「これとか、凜々しくて良い表情してるよな」
「次のもいーじゃん、上目遣いテヘペロ。あ、寝顔もあるぜ!」
「だからなんでお前はなんというか……可愛い写真ばかり選ぶんだ」
「ひかるさんカワイイからしょうがないっスね」
「……しょうがないな」
「てか写真の量えげつないな。さすが鳳凰さん……」
「は、恥ずかしいから消してください~……」
晴れ渡る空に、わたしの情けない声が響く。

獅子吼での日々は今日も平和そのもので――
この時のわたしたちは、これから獅子吼で起きる事件を想像もしていなかったのだった。